認知症の理解

【認知症ケア】回想法の3つの効果と留意点について vol.399

2021-07-17

こんにちは。介護ラボのkanaです。今回は『回想法』について書いていきます。

回想法の効果

回想法

1⃣回想法とは?

回想法とは?

回想法とは、1960年代、アメリカの精神科医バトラー氏(Butler,R.)が、構成者の回想の意味の問い直しを提唱したことを契機に実践されるようになったといわれています。

バトラー氏は、当時、精神医学や心理学の論文で「高齢者の回想は、単なる過去の繰り言」「高齢者の回想は、現実逃避に過ぎない」と記されていたものの、教養ある元気な高齢者も含め、多くの高齢者がとてもうれしそうに、そして楽しそうに回想している様子から、「高齢者の回想は、否定的なものではなく積極的な意味を持つものではないか」と考えました。

それ以降、対人援助の技法として、高齢者の回想を積極的に活用する回想法の取り組みが始まりました。回想法には、

  • 認知症などの疾患等のない元気な高齢者を対象とした実践
  • 認知症などの何らかの疾患等のある高齢者を対象とした実践

があります。

認知症の人は、近似記憶の障害のため最近の出来事を記憶することは難しくなりますが、遠隔記憶は比較的良好に保たれていることが多いので、適切なきっかけがあれば昔の出来事を思い出すことが出来るのです。

回想法には、個人を対象とした「個人回想法」と、グループを対象とした「グループ回想法」があります。さらに回想法を「過去の出来事を懐かしみ、その体験を語り合う」ことを焦点に置く回想法と、「過去の出来事を思い出し、それが自分の人生にどのような影響を与えたのかを省察する」こと、ライフレビューに分ける考え方もあります。

ライフレビューとは?

人生の体験を深い洞察を伴って振り返る心理社会的アプローチの1つ。ホスピスケア等で実践されています。

回想法とライフレビューは明確に区分できるものではなく、実際に高齢者の思いで話を聞いている際に、深い洞察を伴うライフレビューになっていく事があります。思い出を語る高齢者の心理的ニーズと、その話を分かち合う聞き手との人間関係によって決まってくるものと思われます。

毎回、深い洞察を伴うライフレビューが必要になるとは限らず、楽しく思い出を語り合うことで、今、ここでの生活を前向きに過ごしているという高齢者も存在します。

2⃣回想法の3つの効果

回想法には、

  • 高齢者への効果
  • 高齢者の家族への効果
  • 高齢者にかかわる専門職への効果

があることが知られています。これから1つずつ説明していきます。

「高齢者への効果」

回想法の「高齢者の効果」としては、懐かしい話を語り合う過程で、その当時の「楽しかった」「嬉しかった」という豊かな感覚や感情が蘇ってくることにより、心身の活性化に繋がります。また人生を振り返ることにより、様々な出来事を乗り越えてきた長い道のりを思い出し、自己肯定感が高まる人もいます。

グループ回想法の場合、高齢者同士、「懐かしい」「嬉しい」という感情を分かち合うことにより、とても深い心的共感が起こり、交流が深まっていく様子が見られます。

「高齢者の家族への効果」

回想法により「高齢者家族への効果」としては、高齢者の語りを聞くことにより、家族の絆を再確認する機会となり、「何も覚えていない」と思われていた認知症の人が、回想を契機に家族への思いを語りだした様子を見て、深い感動を覚えることなどがあります。

「高齢者にかかわる専門職への効果」

回想法による「高齢者にかかわる専門職への効果」としては、高齢者の人生を聞くことにより、日常の生活支援に生かせる多くの情報を得られることがあります。また、高齢者の人生に触れることにより、自然と高齢者に対する尊敬の念が高まってきます。

この回想法による3つは、相互に影響し合い相乗作用として大きな効果をもたらします。

回想法による「高齢者の効果」のうち、認知症の人への効果として、BPSDの軽減が知られています。記憶障害により、「時間」「場所」「人間関係の繋がり」の感覚を喪失しやすい認知症の人が、思い出を語り合う中で、

  • 「過去」
  • 「現在」
  • 「未来」

という、時間軸が少し繋がり、その過程で確かな自分を取り戻すことがあるのです。

また、懐かしい過去の出来事に伴う豊かな感覚や感情が蘇ってきて、それが情緒的安定をもたらします。日頃、何にも関心を示さなくなっていた認知症の人が、昔の懐かしいアルバムを眺めながら、その頃の思い出を嬉しそうに語り合った後は、心身が活性化され、今を生きる力が蘇ってくるのです。

3⃣回想法の日常生活支援

回想法は、個人回想法であれグループ回想法であれ、限定的な対人援助技法です。回想法の場面では、表情豊かに思い出を語り合っていても、それを意図的に日常生活に繋げる工夫をしないと、せっかく回想法で蘇ってきた経験はやがて消失していきます。

以前、グループ回想法で「仕事・家族の思い出」を聞いた時に、農家の主婦として野菜を作っていたということを話された女性が居ました。

特別養護老人ホームを利用している毎日ですが、プランターがあればシソやネギを育てることが出来ると発言しました。そこでプランターを用意し、シソとネギを育ててもらい、毎日の水やりもお願いすることにしました。

その女性は、毎日の水やりを楽しみにし、そして収穫されたシソとネギはみそ汁の具となり、他の高齢者からもとても喜ばれました。

回想法から日常生活の支援への継続がなされてこそ、「過去」「現在」そして「未来」の時間軸が繋がっていくのです。

グループホームを利用していた女性で、若い頃毎朝、鰹節を削っていたという体験を話された人が居ました。その話を聞いた後に、鰹節と鰹節削り器を用意すると、翌朝から介護福祉職と一緒に味噌汁づくりを担当されるようになりました。

このように、思い出話として語られた出来事を、今の生活に取り入れることで、長年培ってきた経験や知恵が生かされ続けるのです。

4⃣回想法を行う際の留意点

一般的に、多くの高齢者は自ら進んで思い出を語られますが、中には思い出さないことにより、今の自分を保っている人も存在します。そのような人に無理に思い出を語ってもらうように働きかけることは慎重であるべきでしょう。

また、認知症の人から思い出話を聞くときには「語られている内容」がすべて事実であるとは限らない、ということも留意しておく必要があります。

語られている内容が事実であるかどうかではなく、どのように自身の人生捉えているのかという観点から、聞かせてもらった思い出を受け止めていくように心掛けていく事が大切です。

語られた内容が事実ではないことに気付いた時に、あえて誤りを訂正する必要があるとは限りません。どのように自らの人生を捉え、今、これからをどのように生きようとしているのかを知ることが重要になってくることもあります。

回想法を通して、に高齢者の人生を聞くということは、単に思い出を聞いたということ以上の意味を持つことがあります。

自分の人生の大切な出来事を語り合う体験を分かち合った人との間には、とてもf会信頼関係が構築されていくことがあります。

どのような人生を歩んできたのかを確かに受け止めてくれた人がいる、という繋がりの感覚がこころの平穏をもたらすことがるのです。回想法では技術以上に姿勢が重要になります。

認知症

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kana

はじめまして(^-^)/ 介護ラボのカナです。
ブロガー歴3年超(818記事執筆)
介護のあれこれを2020年6月~2022年9/8まで毎日投稿(現在リライト作業中)

社会人経験10➡介護の専門学校➡2021年3月卒業➡2021年4月~回復期のリハビリテーション病院で介護福祉士➡2023年1月~リモートワークに。

好きな言葉は『日日是好日』
「福祉住環境コーディネーター2級」・「介護福祉士」取得
◉福祉住環境コーディネーター1級勉強中!
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