認知症の理解

【認知症ケア・マッピング(DCM)とは?】実施方法と活用方法 vol.398

2021-07-16

こんにちは(^▽^)/ 介護ラボのkanaです。今回は『認知症ケア・マッピング(DCM)』について書いていきます。

認知症ケア・マッピングで記録すること

認知症ケア・マッピング(DCM)

1⃣認知症ケア・マッピング(DCM)とは?

認知症ケア・マッピングとは?

認知症ケア・マッピングは(Dementia Care Mapping:DCM)、1980年代後半、イギリス、ブラッドフォード大学教授のキッドウッド氏(Kitwood,T.)がイギリス政府より、認知症デイサービス等のサービス評価ツールの開発を依頼されたことにより作成されました。

キッドウッド氏は、入所施設や通所施設における認知症の人の様子を長時間にわたり観察し、そこから認知症の人の体験を明らかにしていきました。

キッドウッド氏は報告書で、認知症の人は脳の疾患を持つものの、それだけが原因で混乱した行動や心理症状があらわれるわけではなく、周囲からの否定的な言動が、認知症の人の混乱した行動に大きな影響を与えている可能性があることを明らかにしました。

周囲からの関わり次第ではBPSDは著しく軽減され、落ち着きを取り戻されることも報告されました。認知症の人の中核症状である記憶障害などの認知機能障害が軽減されなくても、BPSDは軽減するという考え方から、認知症の人と周囲の相互作用に着目した認知症ケアの捉え方が注目されるようになってきました。

キッドウッド氏は、認知症という症状を中心として認知症の人を捉えるのではなく、その人の個性や生活歴等、その人となりを形成する「その人らしさ」を中心として認知症の人を捉えていく視点が重要ではないだろうかという問題定義を行いました。この考え方が『パーソンセンタードケア』の考え方です。

そして、パーソンセンタードケアの考え方に基づいて実際に認知症の人に対して、どのような介護が提供されているのかを測定する観察式評価法として「認知症ケア・マッピング」が開発されたのです。

2⃣認知症ケア・マッピングの実施方法

認知症ケア・マッピングは、主に高齢者に介護福祉サービスを提供する入所施設や通所施設のフロアや廊下等の公のスペースにサービス利用者がいる時に観察を行います。

  • 居室内
  • トイレ
  • 風呂場

など、プライバシーが侵害される可能性が高い場所での観察は行わない事とされています。

観察は、連続6時間以上に渡り実施され、信頼性と妥当性の確保という観点から、基本は2名の観察者で記録することとされています。

この2名の観察者のデータが80%以上の確率で一致することを確認し、その観察内容の信頼性と妥当性を担保するのです。6時間という連続した時間にわたり観察することで、認知症ケア・マッピングは、限定的ではありますが、生活を連続した総体として捉えることを志向した「観察式評価法」であるといえます。

認知症ケア・マッピングの観察を行う前に、観察を行う通所施設や入所施設の介護福祉職等にパーソンセンタードケアの考え方や、その考え方に基づき認知症の人にどのような介護が提供されているのかを測定する認知症ケア・マッピングについて説明を行います。この事前説明を『ブリーフィング』といいます。

このブリーフィングで、どのような介護が好ましいのか、あるいは逆にどのような介護は効果的ではないのかも説明していきます。

また認知症ケア・マッピングでは、具体的にどのようなことを観察していくのかも説明します。認知症ケア・マッピングは、単純に介護を、

  • 「良い」
  • 「悪い」

と評価するために行うものではなく、実際にどのように関わればよいのかが分からず、対応に苦慮している認知症の人への対応法を介護福祉職と一緒に探していく為に行うものであることも説明していきます。

このブリーフィングにより、認知症ケア・マッピングの観察者と介護福祉職の共通認識が形成されたときに、実際に認知症ケアの質の改善は実現されやすくなります。

マッピングとは?

ブリーフィングを行った後に行う、連続6時間以上の観察を「マッピング」をいいます。認知症の人を中心にその人に対し、どのような関りがあったのかを地図を描くように記録していく事からマッピングといわれます。

この6時間以上の観察で収集されたデーターをもとにケアサマリーという報告書が作成されます。

ケアサマリー作成後に、認知症ケア・マッピングの観察者は介護福祉職に認知症ケア・マッピングを通して観察されたことを報告していきます。この報告をフィードバックといいます。

フィードバックでは、ケアサマリーをもとに、認知症の人がどのような介護を求めているのかを、認知症ケア・マッピングの観察者と介護福祉職が一緒に探っていくようにします。

認知症ケア・マッピングの観察者が、一方的に介護福祉職を採点するような形で行う観察では、実際の認知症ケアの質の改善には至りません。

3⃣認知症ケア・マッピングで記録すること

認知症ケア・マッピングでは、認知症の人がどのように行動していたのかを24種類の行動カテゴリーに分類し記録していきます。

そして、その時の気分の良い状態・良くない状態(WIB値:Will-being and Ⅲ-being Value)を、

「+5、+3、+1、-1、‐3、‐5」

の6段階で記録していきます。

この記録を5分ごとにつけていきます。また認知症の人にどのような関りがあったのかを記録していきます。これは認知症の人を中心に据え、その人にとってどのような意味があったのかを考え、記録していく事とされます。

例えば、介護福祉職は良かれと思って言ったことであっても、その関りゆえに認知症の人が混乱したら、それは認知症の人にとっては不適切な関りであったと記録されることになります。

つまり、介護福祉職の意図にかかわらず、認知症の人にとってはどのような意味があったのかを、認知症の人の立場になって考え、記録していくという視点と方法をとるのです。

認知症の人が、本当に何を感じ、どのように考えているのかを探ることは容易ではありませんが、出来るだけ本人の立場になって考えていくように努めることが求められます。

4⃣認知症ケア・マッピングの活用方法

イギリスでは、パーソンセンタードケアの視点に立ったサービスを提供することが法律により求められています。そのため、そのような視点に立っているかどうかを確認するために1年に1回、認知症ケア・マッピングの評価を受ける通所施設や入所施設が多く存在します。

サービスの質の改善のために定期的に評価を受けることにより、日頃つい忘れかけていることや、忙しい現場ではなかなか掘り下げて勧化ていくことが出来ないものの、認知症ケア・マッピングのフィードバックの時に、介護福祉職皆で一緒に日頃の介護を振り返ってみることで、改めて気づくことも多くあります。

また、何気なく行っていたことが、認知症の人にとってとても効果的な素晴らしい介護であったことに気付き、介護福祉職皆で良い介護を共有し合う機会にもなります。

認知症ケア・マッピングを受けて気付いたことを、次の介護福祉サービスの改善に繋げてこそ、評価を受けた意味がもたらされます。

認知症ケア・マッピングは、日頃の介護を振り返る機会となり、また認知症の人の立場になってサービスを考え続けることを実践する研修の機会ともなります。

認知症ケア・マッピングを受けることを通し、介護福祉職が自分たちの目指したい介護を再発見し、目標を持って介護現場に立ち続けることが出来るようになるのかもしれません。

認知症

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kana

はじめまして(^-^)/ 介護ラボのカナです。
ブロガー歴3年超(818記事執筆)
介護のあれこれを2020年6月~2022年9/8まで毎日投稿(現在リライト作業中)

社会人経験10➡介護の専門学校➡2021年3月卒業➡2021年4月~回復期のリハビリテーション病院で介護福祉士➡2023年1月~リモートワークに。

好きな言葉は『日日是好日』
「福祉住環境コーディネーター2級」・「介護福祉士」取得
◉福祉住環境コーディネーター1級勉強中!
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