認知症の人の心理、不安・喪失感とは??
Contents
1.不安・喪失感
2.不安・うつと病識低下
3.不安・うつの病態
4.認知症の人のこころの理解
1.不安・喪失感
不安は「BPSD(認知症の行動・心理症状)」の1つですが、同時に多くのBPSDに共通する背景要因でもあります。その背景要因について下記にまとめていきます。
なぜ認知症の人は不安になるのでしょうか?
アルツハイマー型認知症を例にとると・・・
健康な人はこれまで積み重ねてきた経験(エピソード記憶)が脳に蓄積していき「自分」が形成されていきます。
そして1人の社会人として自分の置かれた状況を把握し(見当識がある)、生活を管理し、尊厳が保たれ、将来の展望を持っています。
過去 ⇒ 今 ⇒ 未来 に繋がる時間軸を保持しています。
しかし、アルツハイマー型認知症の人は、軽度のステージでも、
記憶が繋がらないことから見当識があやふやになり、
適切な状況判断が出来なくなり、
場の空気を読むような高度の認知機能も低下します。
記憶が繋がらないだけでも「自分が壊れていく」と、漠然とした不安の要因になります。
そして生活で失敗が増えると、
- 引っ込み思案になり、
- 趣味活動などを止め、
- 友人との外出頻度も減り、
- 家族からは失敗をとがめられ、
- 役割を奪われることが多くなります。
このように様々に要因が重なり、不安・喪失感が募っていきます。
アルツハイマー型認知症が進行すると、今を真剣に生きていても近い過去の記憶が抜け落ち、将来の展望も持てない「時間軸が壊れた状態」になります。
このような不安定な自己(不安や喪失感が一杯の状態)になると、自信は喪失し、自分がしまい忘れて見つからないものを誰かに盗られたと他者に責任転嫁して自己防衛するような心理的反応(防衛機制)が出てきます。
『適応機制』記事はこちらから・・・
【適応とは】適応機制とライチャード・2つの分類 vol.22
アルツハイマー型認知症では、一見ニコニコと取り繕うので不安が見えないようにみえても、漠然とした不安が隠れています。
他の『BPSD』記事はこちらから・・・
【認知症とは何か?】定義と診断基準、認知症状の全体像について vol.65
2.不安・うつと病識低下
失敗体験の蓄積が不安やうつをもたらします。しかし、アルツハイマー型認知症の人は、進行と共に自分の失敗体験も忘れるようになり、病識が低下(認知機能低下の自覚が乏しくなる)し、他人の前では明るく振舞い、不安を見せないようになります。
但し、程度の差こそあれ、不安・喪失感は認知症の人の行動の背景にずっと付きまとっています。
「レビー型小体型認知症」や「血管性認知症」では、初期からうつ的なことが多く、病識は比較的保たれ、不安も強い傾向があります。
レビー小体型認知症では、幻視に起因する妄想や嫉妬妄想の背景要因となります。
血管性認知症でも、被害的な妄想の背景要因となります。
3.不安・うつの病態
アルツハイマー型認知症の不安やうつは、脳病変の影響だけでなく失敗体験から二次的にもたらされる部分もあります。
血管性認知症では、前頭葉白質や大脳基底核の病変がうつと関連することが示されています。
レビー小体型認知症のうつや不安も大脳基底核から脳幹部の脳病変と密接に関連しています。
認知症の人の不安やうつをかかわり方による二次的反応(従来の周辺症状の考え方)としてとらえるだけではなく、脳病変の影響が大きいという理解が必要です。
他の『アルツハイマー型認知症』記事はこちらから・・・
【思考とは何か?】妄想6種類について vol.12
【①認知症の病理】脳の構造と症状との関係 vol.69
4.認知症の人のこころの理解
認知症の人へのケアは、本人の抱える不安・喪失感を理解したうえで、本人の考えや気持ちを尊重してケアする必要があります。
認知用の人へのケアの理念であるパーソンセンタードケアでは相手のその人らしさ(パーソンフッド)を大切にすることが基本とされています。
ケアの相手を1人の人間として対峙し、その人の考えていること、感じていること、行動糸を推測し、理解し、対応します。この時必須の認知機能が視点取得です。
視点取得とは?
積極的に第三者の視点に立って、その人の状況・思考・行動祖施行する認知機能です。
これは認知的共感とも言えます。
認知的共感とは?
たとえば、見て「かわいそう」と直感するような情動的共感ではなく、その人の立場にたって推測する認知機能のこと。
「この人はなぜこんな行動を問うのだろう?」と本人視点で考える際に、自分事としてとらえるのではなく、あくまで相手の立場でとらえます。
こうして本人のこころの内を探り、それを大切にしてケアをするのがパーソンセンタードケアです。
自分事ととらえて感情移入しすぎると、客観的なケアが出来なくと同時に「燃え尽き」の原因にもないます。
視点取得をはたらかせて相手のこころの内を読み取っても、あくまで相手は他人です。ゆえに推測が正しいとは限りません。
「他人のこころ」というブラックボックスを垣間見た言動から推測しているの過ぎません。その限界はわきまえておく必要があります。
※次回はパーソンセンタードケアについてまとめようと思います(^▽^)/
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