こんにちは⭐ 介護ラボ・カナログのkanaです。今日は「社会保障制度のしくみ」について…
介護現場で援助関係を意識したコミュニケーション
Contents
1.バイステックとは?
1⃣バイステックによるケースワークの背景
2⃣利用者(クライエント)の基本的なニーズ
2.バイステックの7原則
1⃣個別化(クライエントを個人としてとらえる)
2⃣意図的な感情の表出(クライエントの感情表現を大切にする)
3⃣統制された情緒的関与(援助者は自分の感情を自覚して吟味する)
4⃣受容(受け止める)
5⃣非審判的態度(クライエントを一方的に非難しない)
6⃣クライエントの自己決定(クライエントの自己決定を促して尊重する)
7⃣秘密の保持(秘密を保持して信頼感を醸成する)
3.まとめ
1.バイステックとは?
バイステック(Biestek,F,P.)は、戦後の社会福祉援助のあり方に一石を投じ、1957年にバイステックの7原則を提唱しました。世界人権宣言から10年が経とうとしているのに、社会福祉現場での利用者への対応は少しも変わっていないことに怒りを込めて、誰もがこう対応してほしいと思うであろう7つの原則を示しました。
福祉現場で人間の尊厳を守ることは、原理・原則を唱えることではなく、まさに利用者と向き合う援助場面や援助関係の中で具体的に実践することだというバイステックの問題定義は、60年以上経った今でも、なお現場で語りつがれています。
1⃣バイステックによるケースワークの背景
バイステックは、その当時の社会福祉機関に生活上の課題を相談にくる利用者(クライエント)と、それに対応するケースワーカーとの間に形成される専門的な援助関係が援助に重要な意味を持つことに注目して、援助関係を形成す際の態度と情緒をもとに、7つの原則をあげました。
ケースワークあるいはソーシャルワークは、おもに相談援助を中心として様々な社会資源を活用しながらクライエント・利用者の生活上の課題の克服に向けて支援を展開していく方法と捉えられてます。
一方、介護福祉実践は、介護を必要としている利用者が、尊厳を保ちながら、自立的に生活できるように、さまざまな生活支援技術を用いて日常生活にかかわりながら援助を展開していく方法ということができます。
ケースワークと介護福祉実践は、利用者の抱える具体的なニーズの範囲や種類、またその生活課題に対する解決に向けたアプローチが異なりますが、援助関係を形成し、その関係の中で援助を展開していくという対人援助の基礎・基盤には共通性があるといえます。
このように考えると、バイステックの述べた援助関係を形成する技法は、介護福祉職にとって重要な視点と方法だといえます。
他の『利用者の権利、権利擁護』記事はこちらから・・・
【基本的人権を守る】利用者の8つの権利 vol.15
【権利侵害の背景と権利擁護の視点】6つのポイント vol.26
2⃣利用者(クライエント)の基本的なニーズ
バイステックは、心理・社会的問題をかかえる相談者(クライエント)が共通に持っている人間としての基本的ニーズとして7つをあげています。
- クライエントとは?
-
専門職に援助を要請する依頼人。クライエント、来談者ともいう。カウンセリングやソーシャルワークなどの福祉分野では、相談者の意味でよく用いられる。ここでは、介護保険や障害福祉サービス等の利用者という意味だけに留まらず、専門相談のニーズを持っている人という意味で、クライエントという用語を使用している。
❶クライエントは、1人の個人として迎えて欲しい、対応して欲しいと望んでいる。
❷クライエントは、否定的な感情と肯定的な感情のどちらも持っている。またそれらを表現したいと望んでいる。
❸クライエントは、依存しなければならない状態に陥ったり、弱さや欠点を持っていたり、失敗を経験していても、1人の価値ある人間として、また生まれながらに尊厳を持つ人間として受け止められたいと望んでいる。
❹クライエントは、自身の感情表現に対して、共感的な理解と適切な反応を得たいと望んでいる。
❺クライエントは、自身が陥っている困難に対して、一方的に非難されたくない、叱責されたくないと考えている。
❻クライエントは、自分の人生に関する選択と決定を自ら行いたいと望んでいる。クライエントは、選択や決定を押し付けられたり、監督されたり、命令されたりすることを望まない。
❼クライエントは、自分に関する情報を出来る限り秘密のままで守りたいと望んでいる。自分の問題を、近隣の人や世間の一般の人に知られたいとは望んでいない。また、自分の評判を捨ててまで、援助を受けようとも思っていない。
上記より、バイステックは、クライエントがこれら7つのニーズを明確に意識している場合もあれば、そうでない場合もあることを指摘しています。また、援助関係においては、1つひとつの「クライエントのニーズ」ごとに「援助の反応」があり、またそれによって「クライエントの気づき」が生じるという力動的な相互作用が展開されていくとしています。
2.バイステックの7原則
新訳 | 従来の訳 |
クライエントを個人として捉える | 個別化 |
クライエントの感情表現を大切にする | 意図的な感情の表出 |
援助者は自分の感情を自覚して吟味する | 統制された情緒的関与 |
受け止める | 受容 |
クライエントを一方的に非難しない | 非審判的態度 |
クライエントの自己決定を促して尊重する | 自己決定 |
秘密を保持して信頼感を醸成する | 秘密の保持 |
1⃣個別化(クライエントを個人としてとらえる)
利用者は、1人ひとりが独失した別個の人格を持つ人間です。個別化とは、利用者1人ひとりを、別個の存在として捉えるということです。例えば、性別や年齢が同じであること、疾病や障害の状況に共通性があることなどによって、同じ特徴を持った人の中の1人として理解することはあってはならないということです。
具体的に、利用者が個別化を認識しやすい援助者の対応の1つは、利用者1人ひとりに氏名で呼びかけるということです。
「おじいさん」や「おばあさん」
ではなく、「〇〇さん」と、覚えた氏名で呼びかけることで、利用者は「私が呼びかけられている」と自覚して、「この援助者は、自分のことを他の誰かと同じように扱うのではなく、個人として理解しかかわろうとしている」と感じることが出来ます。
それが、利用者と援助者の関係性の始まりになるとも言えます。援助関係の具体例として次のようなものがあります。
- きめ細かく配慮すること
- 面接時にはプライベートに配慮すること
- 面接時間を守ること
- 面接の準備をすること
- クライエントの持てる力を活用すること
- 柔軟であること
上記の「面接」場面を「介護」に置き換えて対応しても何ら不自然はありません。介護の現場で行われている「気配り」の重要性を示しているといえます。
2⃣意図的な感情の表出(クライエントの感情表現を大切にする)
意図的な感情の表出とは、援助者として、利用者が抱く様々な感情を利用者が抑制することなく表現できるような雰囲気を作り、場面によっては感情を積極的に表現出来るように働きかけることを意味しています。
利用者を含めて私たちは、感情を表現することに関して無意識に一定のルールを作っています。自分の素直な感情により相手や場面に合わせた適切な感情を意識的に表現することや、感情表現そのものを制限することがあります。
特に、怒りや憎しみ、強い悲しみや苦しみなどの否定的な感情を表現することには、躊躇ったり、相手や場面を選んだりする傾向が見られます。
援助関係の形成においては、このような否定的な感情も含めて、利用者が自分の抱く感情をできるだけ表現できるように働きかけることが求められています。なお、利用者によって感情の表現の仕方に違いがあること、感情を表現すること自体に得意・不得意があることにも留意が必要です。
3⃣統制された情緒的関与(援助者は自分の感情を自覚して吟味する)
統制された情緒的関与とは、援助者として、利用者がどのような感情を表出してもそれを共感的に受け止め、自分の感情を自覚しながらも適切な感情の表出を心掛けていくことを意味しています。
援助者は、利用者の感情の表出の背景にある、利用者の置かれている状況から、表出された利用者の感情がどのように生まれてきたのかを理解しようとします。ただその際に、表出された感情は、必ずしも利用者の真意とは限らないということに留意する必要があります。
例えば、利用者が喜びの感情を示した時、その感情を援助者自身が感じながら、共に喜ぶ態度で接しながらその感情に寄り添う言葉を掛けることが求められます。
また「私は、もう生きるのが嫌になった。早く死んでしまいたい」と訴える利用者には、その利用者の生きる辛さの背景にある事情や、死にたいほどの辛さに思いを寄せてその辛さに耐えながら訴えている利用者の気持ちに寄り添うことが求められます。安易に励ましの言葉を掛けるのではなく、辛さに共感し、共にいるというコミュニケーションのあり方が必要となります。
このように、表出された感情に共感的に対応することによって、利用者は援助者に心を開くことが出来るようになり、援助関係の深まりに繋がると考えられます。なお、統制された情緒的関与は受容と密接に関係しています。
4⃣受容(受け止める)
私達には、人間関係の中で、自分を大切にして欲しい(所属・愛情欲求)また自分の存在や意義を他者に認めて欲しい(承認欲求)という基本的な欲求があります。この欲求をマズローは5段階に分け、生理的欲求、安全の欲求の上位の欲求として位置付けました。
※下記がマズローの欲求階層説です。社会的欲求=所属・愛情欲求です。
受容とは、利用者がどのような状況にあっても、またどのような言動をしても、その利用者を1人の価値ある存在として、ありのまま受け止めて、それに基づく対応をすることを意味しています。
例えば、利用者が入浴や着替えを拒むことがあります。援助者は、入浴や着替えが利用者の生活を充実させるために必要な事だと理解していると、利用者の拒むという行為は望ましくないと感じることになります。そして、望ましくない行為をしている利用者の言動を許容できないかもしれません。しかし、そのような利用者も、他の利用者と同様に1人の人間として尊重し、その存在を丸ごと、ありのまま受け止めることが求められています。
但し、ここで注意しなけれあならないことは、利用者の行為(ここでは入浴や着替えを拒む行為)を良いことと認めることではないということです。そのような行為をしていることも含めて、利用者を1人の人間として認め、受け入れていくことが受容なのです。
利用者は、援助者の受容的な態度とそれに基づいた働きかけによって、自分の不利益になることを避けようと気付くことになると考えることが出来ます。また援助者として、そのような利用者の変化を信頼して待つことが援助関係の形成に重要となります。
5⃣非審判的態度(クライエントを一方的に非難しない)
非審判的態度とは、援助者として自らの価値観や社会的な規範、常識などの基準に照らして、利用者の考え方・価値観や言動を判断してはならないということです。たとえそれが望ましくない考えや言動であっても、利用者の考え方や言動などを一方的に否定・非難してはならないということを意味しています。それは利用者そのものを否定し、利用者の尊厳を損なうことになるからです。
例えば、ある利用者が他の利用者に暴力をふるおうとしている場面に出会ったとします。援助者は、まず利用者の行為を止め、他の利用者に危害が加わることを防ぐ必要があります。しかし、その後利用の確認もせずに、「あなたは間違っている」などと利用者が暴力をふるうおうとした背景を理解しようとすることが求められます。
利用者は、援助者が自分を1人の人間として、またあるがままの存在として受け入れていること、尊厳やプライドに十分な配慮をしていることを理解した時に、援助者を信頼することが出来るようになります。このことは、援助関係が深まること、援助が望ましい方向に展開していくことに繋がります。
6⃣クライエントの自己決定(クライエントの自己決定を促して尊重する)
利用者の自己決定を促して尊重するということは、援助者として、利用者がどのような状況であっても、利用者にかかわることは利用者自身が判断できる環境を整えていくことであり、実際に利用者に判断を促し、自分の意思で決めることが出来るようにかかわっていくことを意味しています。
例えば、認知症や知的障害などによって、判断能力に支障がある利用者であっても、はじめから判断できないと決めつけるのではなく、説明や情報提供の時に配慮や工夫をし、出来る限り自分で判断・決断が出来るよう働きかけることが求められます。
援助関係では、援助者の判断を優先させて援助を展開するのではなく、利用者の自己決定に基づいて援助を展開していくことが求められます。
時にはQOL(生活・生命・人生の質)向上のために利用者の不利益とならないように判断や決定を促すことが必要になる場面があるかもしれません。しかし、そのような場面でも、最終的には利用者の判断の尊重が重要となります。
援助者が利用者の自己決定を出来る限り尊重していくということは、利用者を尊厳ある1人の人間として受け入れてかかわるということを明確に示しています。利用者の自己決定を促し尊重することによって、利用者と援助者の援助関係は深まっていくことになります。
7⃣秘密の保持(秘密を保持して信頼感を醸成する)
秘密保持とは、援助者として、援助関係において知ることとなった利用者の秘密やプライバシーにかかわることを他者に漏らさないと約束し、実際にそれを誠実に守ることを意味しています。
私たちは、誰にでも他者に知られたくない秘密があります。また、秘密にはしていなくても、出来るなら他の人に知られたくないこともあるかもしれません。しかし、利用者という立場になることで、秘密やプライバシーの一部を援助者などに明かさなければならないことがあります。
秘密保持を利用者と約束し、実際にそれを誠実に守ることは、利用者との援助関係の形成において重要になります。援助者は、利用者や関係者から様々な情報を得る必要があり、その中にはプライバシーに関する事や秘密が含まれることになります。そこで秘密保持に関する約束・契約を結ぶことによって、援助者が秘密を守ってくれるという信頼が生まれ、利用者が他者に知られたくないと思っている秘密もスムーズに得られるようになります。
この信頼関係は援助関係の基礎になり、秘密保持は職業倫理上もとても重要です。情報を得るためだけに秘密の保持を約束するということは、専門職として許されることではありません。
まら、援助を展開する中で、連携・協働する多くの専門職との間での情報共有が必要になることもあります。この時は、利用者から情報の共有に関する同意を得ることが求められます。
更に、地域住民やボランティアなどのインフォーマルな援助者に対して情報を共有する場合には、より慎重な取り扱いが求められます。
3.まとめ
これまで述べてきた対人援助における援助関係は、相談場面などを想定して考えられたものです。相談面接で用いる手段はコミュニケーションとしての対話です。
一方介護の展開は、個別の相談面接場面は寧ろ少なく、具体的な生活支援技術を用いてADL(日常生活動作)の介助などで利用者の身体に直接触れたり、それが個室ではない集団レクリエーション中の介助だったり、プライベートな生活空間に直接入り込んで家事支援を行ったりする場面でコミュニケーションが同時に用いられるという特徴があります。利用者との身体的接触やプライベート空間の共有は、その行為だけで密着した関係性を形成する要素となります。
バイステックによる援助関係を形成するための7つの原則は、私たちが利用者の尊厳を保持し、自立を支えるための介護福祉実践を展開していく前提となる、対人援助の基本的原則として理解しておくことが求められます。
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