こんにちは(^▽^)/ 介護ラボのkanaです。今日は「発達と老化の理解」の中から『喪失体験』について書いていきます。
喪失体験となりやすいライフイベントの例
Contents
1.喪失体験とは?
1⃣喪失
2⃣喪失体験に結びつきやすい例
3⃣喪失体験となりやすいライフイベント
4⃣コーピングとは?
2.悲嘆への適応
(1)フロイトの悲嘆過程
(2)新しい悲嘆過程の捉え方
(3)喪失体験後の悲嘆への支援
(4)病的悲嘆の考え方
(5)二重過程モデル
1.喪失体験とは?
「高齢期には喪失体験が多い」と言われることがあります。確かに若いころに比べると、体力も低下しますし、配偶者や友人が亡くなったり、悲しい場面に直面する機会も増えます。
1⃣喪失
老年期において「老い」への意味付けが変化するように、一見すると「喪失」の用意見える出来事を、高齢者自身は喪失と考えていない場合や、反対に思わぬものに喪失を感じる高齢者もいます。
例えば、若いころに集めた音楽テープを勝手に子どもに捨てられてしまったことで酷く落ち込んでしまった高齢者がいます。子どもたちから見れば、もう聞くことも出来ない古ぼけた、価値のない音楽テープでも、その高齢者にとってはとても心理的に価値のある思い出の品だったのです。子どもたちが、その高齢者の喪失体験を想像できなかったから起こした行動といえるでしょう。
このように・・・
- 物理的な喪失
- 心理的な喪失
は必ずしも一致しません。
「喪失体験」は心理的な喪失のことです。ですから、高齢者の喪失体験を周囲の者が勝手に判断することが出来ません。喪失体験について考える時は「同じ出来事でも喪失体験になるかどうかは、個々の高齢者によって異なる」ということを念頭に置く必要があります。
2⃣喪失体験に結びつきやすい例
【友人関係】
◉友人が亡くなる
◉友人の施設への入所
【家族関係】
◉家族が亡くなる(特に配偶者)
◉家族との別居・同居
◉家族の介護
◉家族関係の悪化
【生活環境】
◉住み慣れた自宅の処分や引っ越し
◉施設への入所
◉使い慣れた設備の変更やリフォーム
【仕事・職業】
◉退職や職業生活の引退
◉組織の中での地位や役割の変更
【その他】
◉病期への罹患や悪化
◉犯罪被害
◉事故
◉入院生活
◉閉経・性機能の低下
◉物忘れによる失敗やトラブル
3⃣喪失体験となりやすいライフイベント
前項にまとめた、喪失体験に結びつきやすい例は、高齢者のストレッサーとなって心身のストレス反応をもたらし、病気や抑うつ状態を引き起こしやすいものです。
高齢者は、こころと身体と社会的状況や経験が大きく関係しあっています。
生物ー心理ー社会モデルと元に考えると、高齢者は若者よりも心身のストレスが、容易に身体機能の低下に結びつきやすいことがわかります。
4⃣コーピングとは?
喪失体験の後に、深刻なストレス反応を引き起こさないために、他者との交流や相談が有効なコーピングとなることが知られています。
- コーピングとは?
-
ストレスの原因となる事柄であるストレッサーや、その結果生じたストレス反応に対して、それを緩和・転減するために、自らとして行う対処のこと。
閉じこもりがちな高齢者では、他者との交流がなくなり、人に相談する機会自体が極めて少なくなります。日頃から閉じこもりがちだと、普段は特に問題が無くてもひとたび身体的に不調が生じたり、心理的に不安定になったりすると、それがきっかけとなって、急速に身体、心理、社会のそれぞれの側面が機能低下して、時にはそれが生命の危機に繋がる可能性があるので注意が必要です。
2.悲嘆への適応
(1)フロイトの悲嘆過程
フロイトは精神分析の理論の中で、死別後の心理過程について考察しています。フロイトは死別後の心理状態を悲哀と言い、この悲哀が癒されて、こころが平穏な状態に戻っていく過程のことを悲嘆過程(モーニング・プロセス)といいました。
悲嘆過程では、
❶対象を失った事実を理解し、受け入れて対処する段階
❷失った対象への愛情を引き上げる段階
❸情緒生活の再開の段階
の3つの大階を進むとしました。
当初は失った事実を認められず否認し、まるで生きているかのような感覚に襲われます。そして徐々に失った事実を理解しはじめ、時間が経つとその対象に対する強い情緒が沸き起こり、これは「悲嘆」として経験されます。しかし多くの人がその後に正常な情緒的生活を取り戻していくといく、という過程です。
フロイトは、このような悲嘆を中心とした心理的な過程を、回避せずに経験していくことで、悲嘆から回復していくことが出来ると考え、これを「グリーフワーク」と名付けました。
愛着(アタッチメント)理論を説いたボウルビィ(Bowlby,J.M.)は、愛着対象の喪失という点からグリーフワークを研究し、近親者を失った時の成人の反応には、
①無感覚な段階
②失った人物を思慕し探し求める段階
③混乱と絶望の段階
④様々な程度の再建の段階
という、順序性があることを明らかにしました。
このように悲嘆を段階でとらえる段階モデルは、悲嘆の中にある人への支援において、状態に合わせた心理的支援が重要であることや、悲嘆が必ずしも「悲しみ」として経験されるわけではなく、無感覚や「怒り」の感情として経験されることがることを示した点では大きな功績があります。
一方、段階が示されたことで、その段階が早く進むようにと、悲嘆への直面化がより適応的であり、悲嘆を回避することは病的であるといった誤った認識が支援者の中に生まれていきました。
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【受容と共感とは?】コミュニケーションの対人距離4種類 vol.94
(2)新しい悲嘆過程の捉え方
フロイトの精神分析に基づいた悲哀あ悲嘆過程の考え方は、その後の研究の発展によって定義し直され、現在では当初の理論よりももっと複雑で、他者との関りの重要性を取り入れた、新しい悲嘆理論が用いられるようになっています。
ハグマン(Hagman,G.)は、悲哀を「重要な他者が死別したことに対するきわめて多様な反応」だと定義しました。そして、悲嘆過程では、失った対象との関係の意味と感情の変容が含まれ、その目標はその人物が居なくても生きていくことを認める一方で、同時に亡くなった人との関係性がなくなった後も今なお続いてゆくことを保証することだと説明されています。
また、悲嘆からの回復には個人差が極めて大きいこと、他者や社会的環境が果たす役割の重要性についても指摘しています。
(3)喪失体験後の悲嘆への支援
前項までを踏まえて、現在「病的悲嘆」に陥った人への支援の考え方は次項にまとめた表のように考えられています。表でも説明している通り、病的に見える反応も、その人にとっては死別という喪失体験が意味を持ち続け、「失った対象に対する愛着を保持しようとする方略が上手くいかない」状態だと理解することが大切です。
例えば、配偶者を失った高齢者への支援の目標は、死別の事実を認めて、配偶者に向けていた愛着を他の何かに向けるようにすることにあるのではなく、死別した配偶者に向けた愛着がこれからの生活においても価値ある事と考えることが出来るように意味を探す事、そして残された人の今後の人生の中で、死別した配偶者の意味が再構築されることになるでしょう。
悲嘆の中にある高齢者が、ゆっくりと本音を話す場があり、それを誰かが丁寧に聴いて、その悲嘆を共有しながら、残された高齢者にとって配偶者の生きた歴史の意味や価値を、自分の今後の人生に見いだすことが出来ることが目標となるのです。
(4)病的悲嘆の考え方
【病的悲嘆の考え方】
- 死別に対する反応は人それぞれ独自である
- 支援者が「病的反応」と呼んでいる者は、病的というよりも、意味を持ち続け、失った対象に対する愛着を保持しようと方略が上手くいかないことである可能性が高い
- 死別後には、意味の危機が生じ、この意味によって個々の生活に構造と実態が与えられる
- 悲嘆感情とは、個人の心理的な過程が外にあらわれてきたものではなく、何らかのメッセージを伝達しようとするその人の努力である
- 悲哀は、本来他者と共に経験する者であり、死別から生じる問題の多くは、その人が誰か他の人と一緒に悲嘆を経験することが出来なかったことから生じている
(5)二重過程モデル
悲嘆過程をストレスから捉えたモデルに、二重過程モデルがあります。死別を体験した人は、愛着を向けていた対象の喪失に心理的に対処しなければならないだけではなく、それに加えてその後に生じた生活上の大きな変化にも対処していかなければなりません。
配偶者に先立たれた男性高齢者では、亡くなるリスクが高くなることが知られています。その背景には、心理的ストレスだけではなく、生活上の大きな変化というストレスがある事も考えられています。
こうした観点から、ストローブトシュト(Stroebe,M.S.&Schut,H.)は、死別体験の後の心理過程について、二重過程モデルを提唱しています。このモデルでは、喪失志向コーピングと回復志向コーピングという2つのコーピングを想定しています。
喪失志向
- グリーフワーク
- 侵入的悲嘆
- 愛情や絆の崩壊
- 亡くなった人物の位置づけのし直し
- 回復変化の否認や回避
回復志向
- 生活変化への参加
- 悲嘆からの気そらし
- 生活変化への参加
- 悲嘆の回避や否認
- 新しい役割
- アイデンティティ又は関係性
上記の2つのコーピングについて、今はどちらを重視してコーピングするのか、あるいはコーピング自体を回避してコーピングしないのかを、本人自身が「揺らぎ」ながら決めることが出来るもので、揺らぐことがむしろ適応的だと述べています。
高齢者の喪失体験の支援においても、二重過程モデルからは多くの示唆を得ることが出来ます。
1つは、悲嘆からの回復にはグリーフワークだけではなく、生活の立て直しに向けたコーピングが必要であることです。特に高齢者では若年者よりも、こころと身体と社会の各側面が密接に関係していることを踏まえると、心理的支援のみならず生活面での支援が欠かせないといえるでしょう。
もう1つの重要な示唆は、コーピングをするかしないか、今は「喪失志向」と「回復志向」のどちらに焦点を当てるかについて、高齢者自身が迷いながら決めていくことの重要性が示された点です。
無理に悲嘆に直面化させることは、悪影響がある事も実証されています。焦らず、高齢者それぞれのペースに合わせて伴走していくような態度が支援者に求められているといえます。
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